昔とったなんとかでミュージシャンの知り合いがちょっといる、釣りバカ整体師パンチ伊藤。近頃続けてギタリストが肘を痛めている話を耳にしました。ひとりは注射で誤魔化していて、ひとりはガングリオンまでこさえてしまったらしい。
そんなわけで、ギタリストの肘をちょっと考えてみようと思います。大好きな事をやって身体を痛めるなんて悲しいですからね。

昔々、管材屋さんの配送をやっていた事があります。最初の1ヶ月くらいはそりゃあちこち痛めましたが、慣れてからは4t分の鉄パイプを手降ろしてもどうって事なくなりました。効率良い体の使い方を自然と覚えたわけです。いわゆる『慣れ』というやつですが、 何事もバランスが大切なので『慣れ』にも程度の問題があると思います。

ギタリストの肘痛

よく見るこの形、『F』。(いや3フレットだからGだけど)
コレが押さえられなくてギターをあきらめた人は多いと思います。そ、慣れなきゃ大変。無駄な力も沢山入るから、慣れないうちは痛みが出ます。慣れれば大して苦もなく押さえられる・・・・・・けれど、ものすごーーく慣れている方達が痛みを訴える。
程度の問題もあるでしょうがこれは何かあるなと思って、久しぶりに解剖の本など開いてまとめてみました。あ、施術もよく『疲れるでしょう』と聞かれますが、実は全然疲れません。整体師が整体して疲れてちゃ駄目だと思います。何事も本質はひとつ。しかもとてもシンプルなのです。

関節痛?・・・・・そんなもの存在しません

肘が痛いとなると、何となく関節に問題があるのか?と不安になる人もいるででょうが、痛みの原因は筋肉の酸欠。それはもう疑いようの無い事実として明らかになりました。だからここで関節の事は考えない(膝痛も同様)。現に、ジャカジャカ弦を掻き鳴らしている右腕の方ではなくコードを押さえて固定している左腕の肘に痛みがでる事からも、酷使している関節ではなく踏ん張っている筋肉が原因と思われます。

動きが少なく、しかもギュッと力が入っている状態では、血流が阻害されて筋肉に酸欠が起ります。ガングリオン(脂肪の塊)も、血流が悪いために不純物が堆積した結果。血流がしっかり回復すると消えてなくなります(膝に水が溜まるのも同様)。
ホホ肉、ハラミ、カルビ。良く動く肉はコリも無く柔らかい。んが!理由はそれだけではありません。
どうやらギターという楽器は解剖生理的にみると、ちょっと乱暴な楽器ようです。まさにRock’Roll!!

指を動かす筋肉の大半は肘から始まっている

肘に力を入れているつもりは無いかもしれませんが、手首や指を曲げ伸ばしする筋肉の大半は肘のあたりからはじまっているのです。

ギタリストの肘痛

左は浅指屈筋(手首と指を曲げる筋)。右は総指伸筋(手首と指を伸ばす・反らす筋)。
手首や指を曲げる『屈筋群』は肘の小指側からはじまり、伸ばす『伸筋群』は親指側からはじまるのが大半。指を伸ばす筋肉は、もうちょっと手首に近いところや手の平にもありますが、曲げる筋肉はこの辺にしかありません。

ギタリストの肘痛

ギタリストの肘痛

指の曲げ伸ばしに係る筋肉をまとめてみました。え?!コレだけ?そう、これだけ。
補助してくれるのや、指を開いたり閉じたりする筋肉はまだ少しありますが、『指の曲げ伸ばし』に絞るとこれしかありません。

構造上の問題

指を曲げ伸ばしする筋肉は、手首を曲げ伸ばしする筋肉とかぶっています。先日のエントリに出てくる多関節筋です。

滑らかかつパワフルな動きは『多関節筋』のおかげです
骨格矯正、経絡、ツボ、氣、筋膜、リンパ、その他もろもろ。ひとくちに整体といっても多様な指標を元に様々な理論・手技が存在します。んが、誰がなんと言おうと基本は筋肉です。筋肉がなければ骨は動きませんし(つまり歪みません)、狙いが何であろうと身体に触る...

ギタリストの肘痛

手首を反らせると(伸展)、指を曲げる為の筋肉が引っ張られて勝手に指が曲がります。反対に手首を曲げると(屈曲)指は伸ばしやすくなります。構造上コレが自然な連動の動作なのです。

ギタリストの肘を考える

そんな構造を知ると、写真左のスタンダードな押さえ方より、写真右、シェイクハンドと呼ばれる形で手首を少し反らせぎみにして押さえた方が、負担はずっと少なくて済むのです。(ワタクシは手が小さいから苦手w)
多関節筋の特性を活かせるのがシェイクハンド。スタンダードな押さえ方だと筋肉が短縮し過ぎて壊れやすいわけです。

ついでに手首の曲げ伸ばしに係わる筋肉もまとめました。

手首の筋

手首の筋

指の曲げ伸ばしをする筋肉一覧と合わせて見ると、ギタリストの左肘のどの辺りに痛みが出るか想像できます。急性的に痛むのと慢性的に痛むのとでは、ハッキリ場所が変わりそうです。(イラストが全部右手で申し訳ない)

薬指が“死に指”と呼ばれるわけ

ついでついでに、指だけを動かす筋肉(手の内在筋)もまとめてみました。

ギタリストの指

ギタリストの指

ピアニストやギタリストは薬指の事を『死に指』なんて言います。薬指を制するものが楽器を制すのです。

死に指

こんな風に中指を曲げて指先を壁につけると、親指・人差し指・小指はそれぞれ壁から離せますが薬指は離せません。上にまとめた筋肉図をよーく見れば動かない理由がわかります。『死に指』は才能のせいじゃなく構造上の問題なのです。
理論上動かないものを無理やり動かせば、壊れるのは万物共通。が、あくまで理論上。脳が半分無いにもかかわらず歩いている人もいるわけで、身体の可能性は無限大です。解剖学の理論なんてまだまだ端っこ程度。知ってて損は無い程度です。(ちなみに友達のギター弾きは上の形で薬指をちゃんと動かせました。やり続ければ進化出来るのだ!)

機能的に理不尽な事をしているんだからギタリストの手は凄いのです。ただ無理を承知で動かしているのでそれなりのケアは必要ですね。肘が痛かったらまず手首のケアが必要です。

イチロー選手や桑田選手といったスポーツ選手、ミュージシャンならCharさん村上“ポンタ”秀一さん神保彰さんなどなど真にプロフェッショナルな方達は、自分の生業で身体を壊すようなことはけしてありません。如何に無駄な力を抜くか。その為の鍛錬やケアを含めてはじめてプロフェッショナルといえるのではないでしょうか。

そしてココからが整体です

以上までは筋肉系の解剖テキストをきっちり読み解けば誰でもたどりつけます。整体師を名乗るならここで終わってはダメ。身体(心身)を『ひとつのもの』として見ない事には整体とは言いがたいと思います。

たとえ腕一本でも、決して一本の腕だけが動いているわけではありません。人それぞれ身体の使い方に癖などがあるのでここから先は触って見ない事にはわかりませんが、整体師ならせめて左右の腕から肩甲骨とか鎖骨とか首とかフクラハギとかも合わせて診たいとこです。